医師でも心理士でもなく、神経生理学者であったピーター・レヴァイン博士が開発した治療法です。レヴァイン博士は、頻繁にトラウマに曝されているはずの野生動物が(サヴァンナでライオンに追われている草食動物を想像してみてください)PTSDにならないことに着目し、野生動物では起きている神経系のエネルギーの解放が、人間ではなかなか起きないためにPTSDに罹患するのではないかと考えました。
その前提となっているのは自律神経についての理論です。人間の自律神経系は大きく分けると交感神経と、副交感神経(その代表格が迷走神経)の2種類があります。交感神経は敵に遭遇して戦うか逃げるかしなければいけない緊張した状況で働き、副交感神経は脅威がなくリラックスできるような状況で働いています。ちなみに迷走神経は親子やカップルがスキンシップしたり、親しい友人と楽しくおしゃべりしている時に働く腹側(ふくそく)迷走神経と、一人で飲み食いするなど欲求を満たしたり、休息をとっている時に働く背側(はいそく)迷走神経に分かれています。
通常は自律神経は交感神経優位の状態と副交感神経優位の状態を穏やかに波のように行き来しています。しかし、トラウマ的な出来事に遭遇すると、交感神経が興奮しっぱなしの状態が続いたり、それを通り越すと背側迷走神経が優位になり、体がフリーズしたような状態になります(草食動物が襲われて擬死状態になっているところをイメージしてください)。ソマティック・エクスピリエンシングは硬直した状態になっている自律神経系に働きかけて、少しずつ穏やかな波を起こし、蓄積したエネルギーを解放して、硬直した状態を解除することを目指します。EMDRとほぼ同等な効果があると言われていますが、トラウマとなった出来事の鮮明なイメージがなくても施行可能であったり、現在未解決の出来事に対してもある程度の効果があったりなどの特徴があります。
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