解離と言うと、サスペンス映画で多重人格者の人格がスイッチするような場面を思い浮かべるかもしれませんが、トラウマに関わる治療をしていると、解離というのは人間の心に備わった、ごくごくありふれたメカニズムではないかという印象を持つようになりました。自我状態療法の項でも記しましたが、人間の心は多くのパーツから成り立っていると考えるのがむしろ自然です。そして、受け止めきれないような衝撃に出会った時に、人間は苦痛や恐怖や怒りを1つのパーツに押し込めて、システム全体を守ろうという傾向があるようです。自然な防御メカニズムとも言えますが、解離が習慣・癖のようになってしまって、ささいなストレスを感じる度に解離して記憶の統合性が失われるようになると、社会生活を営む上で大きな障害になってしまいます。また、EMDR治療を行う中で1つ困るのは、トラウマ記憶が「自己」のシステム全体で共有されないと、その記憶を処理したことにならない点です。ですので、治療中に解離してしまって、苦痛な記憶を1つのパーツだけに押し付けて、他はシャットダウンしてしまうようだと、非常に困るわけです。このため、EMDRを行う際には、まず解離傾向を評価して、高そうな場合にはいろいろな形での「筋トレ」「準備体操」から始めることになります。それは苦痛な記憶が出てきても、シャットダウンせずに、それに立ち向かえるだけの体力をつけておくことを目標にした練習なのです。
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