認知症の薬物療法

  認知症の症状は、記銘力低下(物忘れ)や時間・空間の感覚の喪失(見当識障害)といった中核症状と、興奮、暴力、幻覚妄想、せん妄(意識がぼやけて幻覚をみたりまとまらない行動をする)といった周辺症状に大きく分けられます。中核症状に対しては、認知に関わる神経伝達物質であるアセチルコリンの分泌を助けるドネペジル(商品名:アリセプトなど)、ガランタミン(商品名:レミニールなど)、グルタミン酸の分泌を助けるメマンチン(商品名:メマリー)などがあります。薬を飲みたがらない患者様に対しては貼付薬であるリバスチグミン(商品名:リバスタッチ)を使うこともできます。いずれの薬も、残念ながらいったん始まった認知症のプロセスを元に戻すことはできません。ただ認知症の進行を遅らせて、家庭で過ごせる期間を伸ばす効果はあると思われます。重要な副作用としては消化器症状(嘔気、食思不振)以外に、攻撃性を悪化させることがあります。薬を始めてむしろ攻撃的になったような場合には、薬を減量ないし中止するという判断が必要になります。
  周辺症状に対しては、昔からチアプリド(商品名:グラマリール、チアリールなど)というドーパミン受容体阻害作用のある薬がよく使われてきましたが、便秘を起こしやすいなどの副作用があります。最近では統合失調症の薬であるリスペリドン(商品名:リスパダールなど)が使われることが多いですが、高齢者ではパーキンソン病様の症状を来たしやすく、動作が緩慢になって転倒しやすくなったり、嚥下(食べものの飲み込み)が悪くなって、しばしば肺炎を誘発することになります。クエチアピン(商品名:セロクエルなど)はパーキンソン病様症状を起こすことがほとんどなく、比較的安全ですが、糖尿病のある患者様には使うことができません。漢方薬の抑肝散も夜間せん妄や攻撃性に対してよく使われますが、抑肝散だけでおさまらないことがあるのも現実です。躁うつ病で使われる感情安定薬であるバルプロ酸(商品名:デパケン、バレリンなど)も少量使うと情動の安定化に有効であったりします。いずれにしても高齢者に対する薬物療法は、少量ずつ慎重に使うことが基本になります。